フィールドサイエンスゼミで「多自然川づくり」の実例を学ぶフィールドワークを実施/研究・実習 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

フィールドサイエンスゼミで「多自然川づくり」の実例を学ぶフィールドワークを実施/研究・実習 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

研究・実習

フィールドサイエンスゼミで「多自然川づくり」の実例を学ぶフィールドワークを実施

2024年6月7日

最高学部の領域横断研究(3・4年次)の一つ、フィールドサイエンスゼミでは、5月23日(木)のゼミの時間を利用して、東久留米市内の落合川、黒目川に出掛け、「多自然川づくり」の実例を学ぶフィールドワークを実施しました。
今年度のゼミでは、3年生の方法論の講義と連動し「開発と環境保全のバランス」、「物事の多面的価値の認識」を共通テーマに5つのプロジェクトを推進しています。今回のその一つ「自治体との連携で校内立野川の保全に向けたプラン策定」プロジェクトに関連し、全ての川づくりの基本理念となっている「多自然川づくり」について理解を深めています。その一環で市内の河川の代表的な現場を巡りました。

 

落合川中流の落合川いこいの水辺広場にて

 

落合川中流の毘沙門橋付近の河相

 

市内の河川は、武蔵野台地の中でも豊富な湧水量を背景に比較的良好な環境が整う条件が揃っていますが、戦後の急速な都市化に伴い、雨水の排除機能が強く求められ、東京都の事業として河道の断面拡幅や直線化など治水優先の画一的な改修が推進されて来ました。その後、河川法の改正で環境への配慮が加わったこともあり、1990年代以降は「多自然型・近自然型」などと呼ばれる工法での改修が落合川はじめ各地で試みられるようになりました。

当日は、落合川の落合川いこいの水辺広場、宮下橋付近緩傾斜護岸、地蔵橋付近緩傾斜護岸、かわせみ橋付近緩傾斜護岸、一級河川落合川上流端地点、黒目川の一級河川黒目川上流端地点、市管理区間のしんやま親水広場を巡りました。落合川いこいの水辺広場付近は「多自然川づくり」のテキストでもある『「多自然川づくりポイントブックⅢ」中小河川に関する河道計画の技術基準;解説(発行:日本河川協会)』の表紙を飾るなど、全国的に見ても好例の一つとされています。

 

落合川いこいの水辺付近が表紙となっている『多自然川づくりポイントブックⅢ」』

 

湧水が著しく減少した落合川上流・かわせみ橋付近緩傾斜護岸付近

 

通年で湧水が枯渇した落合川上流端付近

 

見学は東久留米市下里の「しんやま親水広場」に重点を置きました。ここは、黒目川上流の市管理区間で、2006年までに親水性の高い空間に改修した例です。この区間の流路は地下と地上の二層に分かれており、増水時は、地上には一定量以上が流れない仕組みになっており、一定量を超えた水は地下を流れるようになっています。比較的安全性、親水性は高いと言える一方で、多自然川づくりという観点からは、多様な生態系(エコトーンなど)を育む増水(洪水)による「撹乱」が期待できず、実際、勾配が一定で単調な水路全体にクレソンやオオカワジシャなどの外来種が繁茂し、水際も陸生の植物が繁茂している状況でした。他方、かつてこの場所は鋼矢板による垂直護岸が整備され、親水性は皆無でおよそ自然的とはいえない状態であったことも解説し、全ての要素がバランスした川づくりの難しさ、また整備後の継続的(順応的)管理の必要性についても感じてもらいました。
短時間でしたが好例から課題が残る例まで、様々なパターンを見学することができました。

 

東久留米市が改修した黒目川上流を見学

 

黒目川上流・しんやま親水広場付近の構造を確認する

 

水質の傾向が周辺の湧水・河川と異なることを確認

 

また30日(木)のゼミの時間で振り返りのディスカッションを行いました。学生からは「河川の改修は人間のためだと思うが、環境、生物目線でインフラを整備していくことも大事だと感じた」、「都心は緑が一切ないところばかりなので、しんやま親水広場は人工的であっても都市の中に自然があること自体は悪くないと思う」、「しんやま親水広場は詳しく知らないと一見して自然豊かに見えてしまうが、ビオトープとして見ると陸上植物が水辺まで繁茂していたり、川の中も外来種ばかりで驚いた、一方で知らない方が幸せなこともあるかもしれない?と思った」、「行政的には管理上安定が求められ撹乱が起こるのはよくないと思っているのではないか?」といった気づきが語られました。

 

単調な環境と植生の様子を観察

 

文・写真:吉川 慎平(最高学部教員・フィールドサイエンスゼミ主任・環境文化創造センター長)・写真:小田 幸子(最高学部教員・フィールドサイエンスゼミ副主任)

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