男女兼用マタニティ服で共に力を合わせる社会を

男女兼用マタニティ服で
共に力を合わせる社会を

矢野 真知子
Machiko YANO

株式会社ゴールドウイン

女子部 89 回生

2021年6月12日談

自由学園大芝生にて。着用のオーバーオールは自分で企画した商品

男性も着られるマタニティウエア?!

 

 2021年の春夏シーズン、弊社のブランド「ザ・ノース・フェイス」からユニセックスのマタニティウエアを初めて発売しました。妊娠出産や授乳などは女性にしかできないことですが、産後に子どもと一緒に使うという部分は、男性にも必要な機能です。そのため、マタニティウエアの開発を始めたときから、ゆくゆくは男女兼用にしたいと思っていました。

 

私は自由学園時代、スポーツと遠足がとても好きだったんです。学部の時は女子部の遠足の引率を経験、ネパールのワークキャンプにも参加して、アウトドアブランドを持つメーカーのゴールドウインに就職しました。入社してすぐは営業部に配属され、その後結婚して双子を出産。産休明けにザ・ノース・フェイスの企画をやってみないかと言われて試験を受け、子ども服を扱うキッズグループに異動しました。ちょうどそのタイミングで女性商品を強化する社内の動きがあり、マタニティウエアの企画が始まって、担当することに。今は4歳になった子どもが1歳の頃でした。

 

マタニティをやるというだけで何も決まっていなかったので、コンセプトから自分で考えました。元々ザ・ノース・フェイスはアウトドアブランドとして8000m級の山を登る登山家や、南極地域観測隊などの服を開発しており、縫製もよく、軽量性や機能性には長年培ってきた技術があります。お腹が大きいときの服は絶対に軽い方がいいし、体を冷やさないように保温性の高いものがいい。機能を生かして妊娠中の負担を軽減すること、ブランドが元々持っている強みを生かし、妊娠中だけでなく「長く使える商品を」というコンセプトが決まりました。

男女兼用のレインコート。妊娠中も着られるし、パーツを前後に取り付け抱っこやおんぶができる(写真提供:ゴールドウイン)

価値に共感して買ってくださる

 しかし、社内には妊婦さんのデータはありません。産前産後の体形変化は著しく、両方使えるものはパターン的に不可能と言われましたが、それでもこのコンセプトでいきたかった。誰もやったことがないので本当に大変でした。テストと改良を重ねて2019年、「ザ・ノース・フェイス」のマタニティウエアがデビュー。発売直後、いきなり完売しました。

いま着ているオーバーオールも、私が考えた商品なんですよ。両サイドについたファスナーを開くと妊娠中も着られます。撥水性がある軽量のストレッチ素材なので、雨に濡れても大丈夫。特に工夫したのは、スノーウエアのようにおしりにファスナーをつけたこと。これがあれば抱っこひもをつけたままでもお手洗いに入れます。最初はデザイナーに「この機能は必要?」と言われましたが、妊娠中は頻尿になるし、子連れでトイレに行くのは結構大変。お客様にもとても好評をいただきました。また、デザイナーのこだわりで、オフィスにも着ていけるようなデザインになっています。

 

その後1年半経って生まれたのが、男女兼用のレインコート。コートの前面だけでなく、背面にもファスナーがついていて、別パーツを前にも後ろにも連結でき、抱っことおんぶに対応できるようになっています。もちろんコート単体でも着用が可能です。

 

従来の育児用ウエアは、リボンやキャラクターがついたものが多く、男性は使いにくかったんです。うちの商品は値段が高いのですが、男性にも抵抗がなく産後もずっと着られます。お客様も機能性や長く使えるという価値に共感し、買ってくださっていると思います。

商品についての取材を受けることも多い(本人提供)

2800人の従業員代表として

 男性も着られるマタニティは新しい概念ですが、社内では「今ある市場ではなく、新しいマーケットをつくれ」と言われているので、それは常に意識しています。ブランドに力があるので、「男女が共に」というメッセージの発信で、社会に影響を及ぼせるかなという思いもあります。

 

今の時代、家事も子育ても女性だけがするものではありません。実際私も、夫と協力しています。夫は社内の同期なので収入はほとんど同じ、家事育児の分担もほぼ半分です。それに、私の部署では「家族を最優先に。仕事ができるなら働く場所は問わない」と考え方も合理的。子育てに理解のある職場です。

 

昨年、2800人いる従業員の代表になりました。社内にある「委員会」という組織の委員長で、女性初最年少だそうです。委員になった4年前、育児支援制度について子育て中の社員から意見を集め、時短制度の延長を実現させました。困っているのが自分だけなら、転職すればいい。でも、他にも困っている人がいるなら、変えていかなきゃ。その精神の根底には、学園で教わってきた考え方があると思います。

 

仕事では百人以上の前で発表し、常に先を見て企画を考え、指示を出し、周囲を引っ張っていく立場。すごく楽しくやりがいもありますが、緊張の連続です。双子の育児もあって、もう限界だと思う時も。でも、たぶん苦しいのが好きなんです(笑)。私はいま30歳。この年齢だからこそできることもありますが、できないことも多いので、まだまだ学んで力をつけていかなくてはと思っています。

「子育てをしながらキャリアを積んでいきたい」

矢野 真知子(やの まちこ)

1991年生まれ。初等部から最高学部まで自由学園で学んだ後、2013年株式会社ゴールドウイン入社。営業部に配属。2016年に双子を出産して産休育休を取得後、職場復帰。現在はザ・ノース・フェイスキッズ企画部のマーチャンダイザー。2020年よりゴールドウイングループ従業員代表。