よりよい会社が、よりよい社会をつくる

よりよい会社が、
よりよい社会をつくる

佐藤 祐一
Yuichi SATO

株式会社羽根田商会代表取締役

男子部 40 回生

2018年11月6日談

2018年秋、東京ビックサイトで行われた展示会で。

コストをかけないカラクリ機械

 日本の物づくりを支えるために、世界中から新しい商品や技術を開拓し、提供するのがわが社の仕事です。元々は機械工具を販売する商社でしたが、最近はその枠をはずしてメーカー的な仕事も始めました。

 

たとえば今回の展示会に出品したのは、物を運ぶ機械。動力ではなく重力で動かす、言わばカラクリ人形のような機械です。こういうものはロボットで作れば簡単ですが、そうすると費用が500~600万かかります。一方、このカラクリ機械なら50~60万でできる。物を動かすというのは付加価値を生まない作業なので、どんな会社もできるだけコストをかけずにやりたいんですよね。想像以上に反響がすごくて驚いています。

 

こうした機械は、イメージは湧いても作るのは意外と難しいんですよ。うちでも技術部の社員が、かなり時間をかけて調整しながら作りました。実際、現場ではロボット的機械の方がいい場合もあるし、カラクリ機械がいい場合もある。どんな機械が適していて、どうコストを下げられるか。実際に営業マンと技術者が、工場まで見に行って提案しています。

名古屋市にある羽根田商会本社で社員と打ち合わせ。(本人提供)

リーマンショックを乗り越えて

 販売から製造へと手を広げたのは、10年前のリーマンショックがきっかけです。うちの会社は愛知にあるためトヨタやその関連会社がメインの取引先ですが、それまで422万台あった国内の自動車生産台数が300万台に落ち、わが社の売上も半分以下になってしまいました。

 

その時考えたのは、自動車の比率をいかに減らしていくか。もう一つは量を追う経営をやめて利益を上げる経営に変えることでした。加えて、これからは生産性がキーワードになる。インプットを小さくし、アウトプットを大きくする。それが、オリジナル省力機器の製造につながりました。

 

リーマンショックの年は1億7千万もの赤字で苦しかったけれど、人員削減はやらなかった。社員には「パートさんを含め雇用は守ります」と話し、僕の給料を半分にしたり、展示会や出張をやめてコスト削減し、どうにか乗りきりました。

 

業績は全てオープンになっているので、パート社員は仕事が終わると自発的に早く帰ってくれました。会社を休業すれば国の助成金がもらえましたがクローズせず、その代わりお世話になっているお客さんのところに営業マンが毎日出かけました。半年ほどすると仲よくなった取引先から注文があり、景気も戻って来たんです。

 

社長になった21年前は、社員全員が正社員でしたが、僕はパート社員を入れて来ました。何かあった時に辞めてもらえるからです。でも、いざ危機に直面すると、ずっと家族のように一緒にやって来た人をやめさせるわけにはいかなかった。会社が潰れるならゴメンというしかありませんが、まだそこまでじゃない。だからなんとかみんなで頑張ろう、と。中小企業にとっては、人が何より大事なんです。

2015年にインドネシアで行われた展示会にて。(本人提供)

自由学園で培った価値観

 羽根田商会は父が創設した会社ですが、父から後継者になれと言われたことは一度もありません。ただ、祖母には「お前は跡取りだ」と言われていたので、早くから自覚はあった気がします。学部3年の頃、父に「跡を継ぐ」と言ったら「大学院に行け」と言われ、アメリカに留学。2年後に戻って、一営業マンとして仕事を始めました。

 

経営を受け継いだ時に40人ほどだった社員が、今は110人。その内パートは23人です。父は「人間を創る」という社是を掲げていましたが、「どういう意味?」と聞いてもはっきりと返事はもらえなかった。僕は僕で経営者になった時、経営理念を考えました。

 

何のために仕事をするのか。金儲けのためだけでは楽しくありません。社長になって半年ほどたった時、何が楽しかったか振り返ると、社員がプロジェクトを達成して「やった、やった!」と笑っていたことでした。取引先にも助けられ、みんなが喜んでいる光景が浮かび「このためなら頑張れる」と思ったんです。

 

お客様に喜んでもらえれば社員がハッピーになり、社員がハッピーなら僕もハッピーになる。だから「お客様の喜ぶ顔を見る」を経営理念にしよう、と。

 

僕が考える幸せな人生とは、経済的な豊かさはもちろん、その上で働きがいや精神的な豊かさがあること。仕事を通して「あいつに頼めばなんとかなる」という信頼関係を築いていけることじゃないか。そう考えていたら、結局これは相手を先にすること。つまり「父が言っていた〝人間を創る〟と同じだ!」と気づいたんです。

 

私の経営は自由学園で培った価値観が大きく影響していると思います。公平、公正、対等。そして全体を優先するところ。学園では当たり前のことがベースになっています。会社がよくなれば、社員みんなも幸せになり、幸せな人が増えれば、社会もよくなるでしょう。シンプルですが、そう願いながら会社経営を行っています。

人間を創る企業でありたい。

佐藤祐一(さとう・ゆういち)

1961年生まれ。自由学園最高学部卒業後、米国留学。Montery Institute of International studiesでMBA(経営学修士号)を取得。その後、父が経営する羽根田商会に入社。97年に代表取締役に。愛知中小企業家同友会代表理事も務めている。