「よいことはかならずできる」と信じて

「よいことはかならずできる」
と信じて

大皿 恭子
Kyoko OSARA

ソウル友の会、韓国・ブンダン日本語補習授業校 代表

女子部 81 回生

2021年9月9日談:オンライン

自宅リビングを開放した「家庭文庫」(本人提供)

移住した韓国で友の会を設立

 韓国に移住して約10年になります。就職先の同僚だった韓国人の夫と結婚し、夫の転職を機に韓国に移住しました。私は日本で暮らすつもりで夫とも英語で会話をしていたので、韓国語が全くわからない状態で渡韓したため、義理の家族とコミュニケーションを取るのにも苦労するような状態でした。

 

そんなとき、以前韓国に駐在でいらしていた全国友の会(*)の黒澤美恵子さんのお声がけで、同じく韓国に住んでいる卒業生たちと引き合わせていただきました。黒澤さんは韓国でも『羽仁もと子著作集』の読書会を開催されていました。何度かやりとりを重ねるうちに、あれよあれよとソウル友の会を設立することになり、私はその中心メンバーとして活動することになりました。メンバーの中には『婦人之友』を愛読していた来韓40年になる方もいらっしゃいます。私の同級生もいたことは、非常に心強いことでした。いまの会員は10人。全員が日韓カップルです。

 

私は2010年に神戸友の会に入会していました。母が友の会の会員だったので、およその活動内容は知っていましたが、お手伝いが大変だったという子どもの頃の記憶もあって、入会しようとは思っていませんでした。ただ、家族と離れ周囲に助けを求められる人もいない暮らしの中で子どもが生まれ、母の知人の誘いを受けて催しに参加したことが、入会のきっかけとなりました。

 

(*)全国友の会:1930年に創立された『婦人之友』の読者の会。2020年現在、国内173・海外9拠点を持ち、会員数は約16,500人。

「韓国・ブンダン日本語補習授業校」にて(本人提供)

継承日本語教育の重要性を実感した

 移住後の2013年に第二子を出産する際、母親が手伝いに来てくれたのですが、そのとき母と日本人の集まりに行く機会がありました。そこで日本人の親を持つのに日本語が話せないお子さんや、日本語が怪しい親御さんを見て衝撃を受け、日本語を継承していく重要性を認識したんです。とくに母は学童の仕事をしていたこともあり、その衝撃は大きかったようで、そうした親子を助けるため、母が日本語教師の資格を取得し、ソウル近郊で巡回日本語教室を開くことになりました。

 

その後、2015年に城南市盆唐区で、韓国・ブンダン日本語補習授業校として開校し、日本にルーツを持つ就学児を対象に授業を週に1回行うようになりました。子どもたちの成長に合わせて拡大し、いまは幼児から中学生までを対象に、国語の授業を行っています。最初は母が日本と行き来しながら講師を務め、私は事務方をしていましたが、2018年からは保護者運営の団体として私が代表となり、ほかの保護者の方とともに「継承日本語教育」を行っています。在籍している60人弱の子どもたちはほとんどが日韓カップルの子女ですが、日韓関係は子どもたちの生活にも影響しています。学校では歴史の授業もありますが、それをどう捉えるかは子どもたち次第です。なので、授業はあくまで継承日本語教育としての「国語」に絞っています。

 

海外では、年齢相応の日本語の書籍を十分に入手することが困難です。友の会の活動と並行していたこと、そして友の会メンバーが補習校の保護者でもあることから、友の会で図書寄贈をお願いしたところ、1,000冊もの書籍が日本から寄贈されました。みんなに読書機会を提供できるようにと、家庭文庫として開放しています。いまはコロナの影響で少ないですが、我が家のリビングは誰かしらが出入りしているような状況です。夫は現在単身赴任中で週末しか帰ってこないのですが、何も言わないで支えてくれていることには感謝です。

ソウル友の会、オンラインでの集まり。中央下が大皿さん(本人提供)

「やらなきゃね、あなた」という内なる声

 補習校は友の会と違い、キリスト教思想に基づくものではないため、日本語継承という一点のみでつながっている組織です。補習校教師は保護者がボランティアで行うものですが、さまざまな理由で負荷に偏りが出てしまっているのは課題でもあります。日韓関係が悪化すれば国際結婚も減り、生徒数の減少にもつながりますし、バイリンガルにしたいと強く思わないご家庭もあります。日本語を継承する難しさというのを実感しています。

 

開催場所も課題です。いまは私が通っているマンナ教会の部屋を借りて行っています。マンナ教会は、4回の礼拝、1回に3,000人が出席するような大きな教会です。私はそこで礼拝の同時通訳の奉仕もしています。A4で10枚分くらいの説教について通訳用の原稿を準備するなど、渡韓した時からは考えられませんが。今の生活は友の会、補習校、教会、そしてモンゴルのマンホール・チルドレンを支援する「モンゴルキッズホーム」の韓国事務局の仕事と、やりがいのあることに支えられています。

 

非常に活動的に見えるかもしれませんが、私自身はパイオニア精神が強いわけではないと思います。確かに、自分のうちから出てくるパワーは多いとは思いますが、頼まれたときに断れない性格ということもあり、それで大変になっている部分も正直あります。ただ、何かあったときに「やらなきゃね、あなた」みたいな声が聞こえ、気づけば環境が整えられているんです。今後も「よいことはかならずできる」と信じ、自分の内なる声に従って歩みたいと思います。

大皿 恭子(おおさら きょうこ)

1983年生まれ。中等科から最高学部まで自由学園に学ぶ。2003年、神戸松蔭女子学院大学に進学。ラクロスに打ち込み、U21日本代表に選出。2007年に教員免許取得後、就職。ラクロスの社会人クラブチームを創設。2011年、受洗。同年、夫の転職で韓国に移住。2014年、ソウル友の会創立、家庭文庫「こひつじ文庫」開設。2015年、韓国・ブンダン日本語補習授業校(非営利共助団体)を創設し、2018年より運営代表・小学部教師(国語)を務める。