リモートワークで限界集落を持続可能に

リモートワークで
限界集落を持続可能に

増田 茂樹
Shigeki MASUDA

オオミシマスペース経営

男子部 62 回生

2021年2月22日談:オンライン

大三島ののどかな環境でテレワーク(本人提供)

夫婦そろって田舎で暮らしたかった

 2016年に、愛媛県今治市の大三島に移住しました。もともと祖父母が住んでいた地でもあり、前から40歳になったら田舎に住みたいとは思っていました。同僚だった妻と結婚した年に、たまたま仕事で「理想の暮らしを考える」というワークショップの提案を行ったことをきっかけに、妻とも「理想の暮らしってなんだろう」と互いの意見をすり合わせてみたら、2人とも田舎志向が強かったんです。田舎で暮らすためには、その地域で暮らすために必要な知恵を引き継ぐことも大事ですから、祖父母が元気なうちに移住しようと思いました。

 

ただ、島には仕事がないということも理解していました。いずれは祖父の家にPCを並べて、レンタルサーバーの運営でもやろうかと思っていましたが、今はクラウドの時代。環境としてはリモートワークが可能だったので、会社にお願いして移住することにしました。もちろん、いきなり移住してリモートワークというわけにもいかないので、まずは週1で在宅勤務を、そのうち週の半分を在宅で……としていくうちに、家と会社で成果は変わらないという評価をしてもらえました。当時勤めていた会社はペーパーレス化も進めていたので、話が早かったというのもよかったですね。

 

リモートワークは、人の目が届かない場所で仕事をすることになるため、与えられた時間の中で、最大限のアウトプットを出し続けるということを最初から意識しています。チャットのレスポンスをすぐ返したり、人が思う以上のアウトプットを出し続ける努力をしなければ、本当に仕事をしているのか疑われてしまいます。まさに自由学園で学んだ「自由の裏には責任がある」ということです。コロナ禍で強制的にリモートワークをさせられている人もいると思いますが、与えられた自由の中で、うまく選択ができる人とできない人に分かれるのではないかなと思っています。

オオミシマスペース(本人提供)

価値観と空間を共有できる仲間がほしい

 コンピュータに興味があった私は、高等科1年のときにアルバイトで貯めたお金で自作PCを作りました。インターネットに接続して、他校の生徒と交流することで、学園の外とつながる楽しさを知った一方で、これまでテレビや新聞といったメディアを受け身でしか受け取れなかったのが、ブログなどで自分から情報発信ができるようになったことを知り、「これはすごいことになるぞ」と思い、専門的に勉強しようと思ったんです。

 

高校生のためのチャットルームを作って交流を重ね、地元の兵庫県に帰省した際には、大阪の人たちと「オフ会」も開催し、いわゆる普通の高校生の感じも味わうことができました。ただ、チャットで出会った高校生たちとは共通の話題もないし、面白かったというわけではありませんでした。社会人になっても、会社の同僚と仲良くなって、深い話をするかといえばそうでもありません。しかし、自由学園では寮生活をしていたので、24時間一緒に生活していた仲間がいました。その違いは何か考えてみると、同じ目標を持っていたり、長く同じ空間にいることで共有できるものが多かったからだと思います。

 

価値観の合う人とは仲良くしたいし、近くにいたいと思いますよね。コミュニティを作るというと大げさかもしれませんが、田舎暮らしでも十分仕事ができるということを発信し、それを共有したいと思い、「ワーク&ライフ」をコンセプトにした宿、オオミシマスペースは生まれました。

瀬戸内海に浮かぶ大三島。移住は大きな決断だった。(本人提供)

新たな働き方を提案するオオミシマスペース

 島の外に仕事を持つ人がリモートワークをするようになれば、島の中の経済を支えることになり、空き家の解消にもつながります。限界集落を迎えている村が持続可能となるためにも、シリコンバレーのようなIT村が作れたらと思っています。そうすれば、違う仕事をしていても、同じ場所で生活しているうちに、その村から発信できる何かが生まれるのではないかと期待しています。こうした取り組みは、多くのメディアでも紹介いただき、徐々に移住者も増えてきています。

 

移住を決意させる基となるのは、環境とそこにいる人です。大三島は目の前に瀬戸内の穏やかな海があります。船舶免許を取ったので、趣味の釣りも楽しんでいます。贅沢ではなくとも、地元の魚や野菜など、知っている人の作ったもので食卓が飾られるのは幸せな気持ちになります。オオミシマスペースでは、こうした魅力を伝えつつ、地域課題の洗い出しを行うワークショップなども開催しています。そうすると、田舎を知らない人も、田舎に対する愛着がわいてくることがわかりました。そうして人が循環し、地域に好影響をもたらすことができればとても嬉しいですね。

 

周囲を変えるには大きなエネルギーが必要です。ですから、最終的には自分が変われるか、変われないかが問われると思っています。人も組織も同じです。リモートワークであったり副業であったり、新しい働き方は、互いの信頼があって成り立つものです。そうして、今までにない新しいアウトプットが増えていくのではないかと感じています。

最近はよくワークショップも開催している。(本人提供)

増田 茂樹(ますだ しげき)

1983年生まれ。中等科から高等科2年まで自由学園で学び、八洲学園高等学校に転校。2006年に京都コンピュータ学院洛北校を卒業後、株式会社四次元データ(現シナジーマーケティング株式会社)に入社。2016年に愛媛県今治市大三島に移住し、2017年オオミシマワークス合同会社設立。翌年、シナジーマーケティング社を退職し、フリー株式会社に移籍。リモートワークで勤務を続ける。