丸野 慶光
Yoshimitsu MARUNO
株式会社竹尾 ロンドン駐在
男子部 59 回生
2016年9月11日談
モナコで行われた展示会LUXE PACKで、ドイツの製紙会社グムンド社の社長フロリアン・コーラー氏と(本人提供)
人と人とがこすれ合う経験
僕は紙の商社で営業を担当していますが、紙は生活の中で広く使われるので、国内外のいろいろな分野の人たちと関わる機会が多くあります。こうした人たちとのコミュニケーションは、自分では向いているほうなのかなと感じています。
その理由の一つは、自由学園で受けた幅広い分野の教育とさまざまな体験が下地としてあることだと思っています。卒業後に習得していった知識なども、在学中の教育や体験から派生したことが多くあります。
もう一つは、学園生活で人と人とのこすれ合いを体験してきたというのも大きく影響しています。こすれ合いとは、学園生活でのさまざまな当番や、行事の運営、寮生活の中などで起こる人間関係の軋轢です。この軋轢は起きた段階だけでなく、解決していくにもかなりのエネルギーが必要です。これらが多様なコミュニケーションに対応できるようになったことの基礎になっていると思うのです。
人とぶつかって、つらい挫折も体験し、相手を尊重しながら自我を確立する。この経験を中学生の段階で本格的にスタートできたのはよかったと思っています。仕事も人と人との関係で成り立っているので、このこすれ合いを経験せずに社会に投げ出されていたら、その分だけ社会に出てから苦労していたでしょう。
大規模で生徒も大勢いる学校に比べると、1学年1クラス、同級生が40人で教室は一つというのはとてもコンパクトです。ただ、逆にその状況下に置かれていたからこそ、より多様で濃密な人間関係の体験ができたのではないかと思っています。
竹尾の紙が閲覧できる「見本帖本店」(竹尾ホームページより)
誰も知らない情報の全体像をつかんでいく
仕事で接しているのは、ブランドオーナーなどのエンドユーザーから地場の印刷会社までさまざまです。僕は新規の訪問が多いのですが、そのための事前の情報収取にはとても労力が必要です。その企業の業界の中でのポジション、特徴、歴史、商取引上の習慣の違い、など多角的に考察しながら商談の準備をします。
以前インドへ出張する機会があり、その都市で最も格式の高いホテルにアプローチを試みたことがあります。日本から連絡してもなしのつぶてだったので、現地に行って、ホテルのロビーで担当者が会ってくれるまで帰らないと粘りました。最後には担当者が折れて1時間後に会ってくれたのですが、ただ残念ながら何もビジネスにはつながりませんでした。
ニーズに関しても、相手が明確に「こういう紙が欲しい」と要望を伝えてくれる、わかりやすいケースはほんのわずか。表面化していない情報を捉えながら、相手もまだ気づいていないニーズを、いかにこちら側から掘り起こして提案できるかが課題です。
すべての情報が表面化し、成功までになすべきことがわかりやすく把握できていれば苦労せずにすみますが、入念に準備しても失敗に終わることは多くあります。新規の訪問や、前例のないことをするということは、自分で成功イメージを持ちながら、やってみるしかない。誰も知らない世界に踏み込むのは時に怯むこともありますが、とにかく一歩前進する以外方法はないと信じています。0を1にするとは、そういうことなのだと思います。
会社では仕事を通じてこういった経験をする機会に恵まれ、さまざまな環境の中で情報を集めながら仕事に結びつけていくことを徐々に身につけてきました。
一方で、厳しいですが、求めたものすべては叶わないという現実があります。でも、それでも求め続けないと、一つも叶わない。自分にとって求め続ける原動力は、少し大げさですが使命感や責任感に近いものです。学園の入学式で語られる、「自分の属する場をよくするためにここにいる」という言葉は、今でも自分の行動の核となっています。家族、会社、社会など、すべてです。僕は自分の存在意義もそこにあると思っています。
パルコミュージアムで、シンガポールのデザイナー兼アートディレクター、テセウス・チャン氏と。チャン氏の作品の前で(本人提供)
周りの人が喜ぶことを
話はそれますが、香港駐在の最後に、倉庫の入り口が少し汚れていたのが気になっていたので、休日に同僚には内緒でペンキを塗ってきれいにしました。香港で信じられている風水では、商品が出入りする扉をきれいにすると、商売繁盛につながる運気がとても上がるそうです。
翌日、「誰だ、いたずらしたのは?!」「そんなことするの、MARUNOぐらいだ」と言われて、とても喜ばれたことは今でもとてもよく覚えています。 人間関係に本気で向き合い、自分がしてもらって嬉しいことを他の人にしていると、自然と周りの人も喜んでくれると信じています。
すべてに通じているのは行動することの重要性です。何かをやるかやらないか迷ったら、とにかくやってみる。行動しなかったことで後悔することは時々あると思うのですが、行動を起こして後悔することは、実はあまりないように思います。
迷ったらやる。行動が大事。僕自身、これは学園時代から大切にしていることです。
丸野 慶光(まるの よしみつ)
1980年生まれ。2003年自由学園最高学部卒業後、1899年創業の紙専門商社、株式会社竹尾入社。約4年の国内営業部業務を経験後、海外部へ異動。08年、香港へ出向。2年間駐在し、10年に帰国。16年9月よりイギリス・ロンドンに駐在。