子どもを通じて、人と地域の循環を生み出す

子どもを通じて、
人と地域の循環を生み出す

栗栖 真理
Mari KURISU

「浜田のまちの縁側」代表

女子部 59 回生

2020年7月13日談:オンライン

浜田のまちの縁側で。

地域と学校をつなぐ「まちの縁側」

 「まちの縁側」は地域と学校をつなぐコーディネーターの役割を果たしています。浜田市の教育委員会や公民館の職員とも連携協働しながら、小中学校の総合的な学習の時間や放課後のプログラムのデザインをしています。

 

そもそも「まちの縁側」を始めようと思ったきっかけは、2000年の鳥取西部地震でした。当時、私は米子市で訪問看護とケアマネージャーの仕事をしていて、地震のときには独居高齢者の安否確認に行かなければなりませんでした。まだ私の子どもたちも小さかったのですが、ご近所のお母さんが預かってくださり、地域のつながりの大切さを実感しました。と同時に地域住民はサービスの消費者として、介護や子育て支援のサービスに依存するようになり、いわゆるご近所力が低下していくことへの懸念を感じたことが背景です。縁側のように、外でもなく中でもなく、でも外に開かれた空間。人と人のつながりの中で生きていく確かさ、豊かさを感じられる地域づくりの拠点。それが「浜田のまちの縁側」です。

地元の中学生と子どもが遊ぶ「放課後あそび隊」

自宅の一部をパブリックスペースに

 結婚してから10回ほど各地を転々としていましたが、夫の勤務先が夫の郷里である浜田市となったことで、定住することになりました。

 

2000年初期は、民間のコミュニティーカフェなどの地域の居場所はあまりなく、介護保険施設や障碍者施設といった、制度に裏付けられた空間が主流でした。そんな中、千葉大学で都市計画等を教えておられた延藤安弘先生の文章にネットで出会い、「ぜひお話を伺いたい」とお手紙を書いて、立ち上げのサポートをお願いしました。子どもを含む多世代の地域住民、行政、教育、福祉関係者等が集い、ワークショップをしながら、形を作っていきました。そして2004年の開所と同時に文部科学省の放課後子ども教室の委託事業に採択され、「まちの縁側」は軌道に乗りました。縁側が子どもたちにとって、ありのままの自分でいられるもうひとつの居場所になるようにと願って今日まで活動してきました。

 

当時住んでいたのは借家でしたが、古いけれども広い家でした。大家さんが、私たちが出ていったら壊すと話していたため、家を買い取って自宅の一部をパブリックスペースにしました。2004年6月にオープンし、11月にリニューアルしたのですが、その改修プロセスも子どもたちに見せるようにしました。もちろん、プライベートとパブリックをしっかり分けないと、我が家の子どもたちにもストレスが溜まってしまうので、そこはしっかり分けました。夫は非常に忙しい人ですが、彼にとっても居場所になるように、「あなたも老後、ここに座ってね」と話したら快く受け入れてくれ、感謝しています。

 

プライベートと縁側は、区切られていても、実は「地続き」「地域に開かれた住まい方」なんです。

みんなで昼食づくり

地域が豊かになるには、子どもの参画が不可欠

 こうした活動で重要なのは、継続していくこと。毎日開くことができれば理想ですが、頑張りすぎると続かないので、今は週に2回ほどです。ボランティアスタッフの協力で、私がいなくても土曜日に開けることができています。

 

事業の対象は子どもが中心ですが、そこにお母さんやおじいさん、多世代が加わります。縁側はすべての人に開かれた場所。地域の方が野菜や雑貨を持ってきてくださったり、不要となったおもちゃや絵本を寄贈されたりと、みんなの気持ちが集まっているんです。だれもがユーザーでありオーナー。だから年末の大掃除も大人と子ども、みんなでやっています。

 

大人より能力が低いという子ども観が未だにありますが、子どもには子どもなりの意思があります。これからの社会を切り開くのは子どもたちであると考えれば、大人にはない子どもたちの豊かな発想が必要な場面もあると思います。大人による救済や指導ではなく、子ども同士で存在を認め合い、お互いに力を引き出し合い、楽しい時間をすごしている場面に遭遇すると、ほんとに素敵だなあと思います。

 

島根県は課題先進県でもあります。今の子どもたちには、「あなたが必要なんだ」と言える関係が必要です。小さくても、自分に役割があり、必要とされる社会。家庭や学校で役に立ったり、「ここをよくする」という具体的なことの積み重ねが、未来への主体性を育むと信じています。地域が豊かになるためには、子どもの参画が欠かせないのです。

 

多くの地域では子どもが成長すると地元を離れていき、高齢化が進んでいます。子どもを地域で育み、成長した子どもが地域社会に様々なかたちで還元してくれる、そんな循環をつくるには、小さな地域で始めることに意味はあると思っています。子どもが本気になる姿に大人が触発されて、地域が本当の意味で豊かになる、そんな循環を生み出すことができれば、と願っています。

家の一部をパブリックスペースに

栗栖 真理(くりす まり)

1960年生まれ。幼児生活団より自由学園で学び、1981年に女子最高学部卒業。聖母短期大学、聖路加看護大学を経て訪問看護師として活動。結婚を機に1990年に米子に移住。3人の子育てと在宅ケアの仕事に従事する。2002年に島根県浜田市に移住し、2004年より「浜田のまちの縁側」代表。浜田市地域学校協働推進員統括コーディネーターはじめ、地域の子ども・子育て支援活動に取り組む。