不安を抱えた人々の拠り所となる「家」を

不安を抱えた人々の
拠り所となる「家」を

石橋 憲
Ken ISHIBASHI

グレイス・ハウス 代表

男子部 61 回生

2021年4月22日談

自由学園図書館にて

ビジネスの根底にあるのは奉仕の精神

 私が卒業した2005年当時は就職氷河期の最後。入ったのは駐車場運営を手掛ける上場企業でした。長く関東に住んでいて、自分の人間の型が固まってしまっていたように感じていたので、就職してすぐに、会社の名古屋営業所立ち上げの話に手を挙げ、知り合いの全くいない新しい土地で働くことにしました。営業所の開設から地域ネットワークの開拓までを新人2人でやったのですが、地縁のないところだったので、新しい関係づくり、新しい自分づくりができたことは、その後の自分の人生において大きな財産となりました。

 

在学中は、どの授業よりも毎朝の礼拝に真剣に取り組み、礼拝や聖書の言葉を通して「仕える」ことの大切さを学びました。2011年に東日本大震災のボランティアに行ったことをきっかけに、もっと社会に貢献する働きがしたいと考えるようになり、翌年会社を辞め、自分で駐車場の会社を立ち上げました。自分の会社を持ち、自由な時間を作ることで積極的に災害支援や社会貢献事業に加わるようになりました。今も東海地域(東海キリスト者災害ネット)と全国の団体(キリスト全国災害ネット)でそれぞれ役員を務めています。ほかにもNGO団体やキリスト教団体の働きを次第に担うようになりました。そんな頃に、キリスト教主義ゲストハウス運営をしていたグレイス・ハウスの当時の代表者から「男性向けのシェアハウスを作りたい」という相談があり、自分の持っている不動産の知識を活かして、2014年から手伝うことになりました。シェアハウスを作る上では、自由学園時代の寮生活の経験が役に立ちました。

 

次第にグレイス・ハウスの運営の責任を担うようになり、2018年に正式に代表に就任しました。シェアハウスやゲストハウスのビジネスモデルは元々フルタイムでやるようなものではありません。私がやっていた駐車場事業や不動産コンサルティング事業等で何とかやっていけるのが実情です。その駐車場事業も、利用料の一部を国際協力団体に寄付するなど、社会貢献の一環として行っています。経済的にはなかなか厳しいですが、「ミニストリー(奉仕)」の精神に基づいて、必要とされる限りは何とかもがきたいという思いでいます。

業界初の支援型駐車場を開設(本人提供)

人々に安心できる場所を提供する

 毎年数十団体、数百人を受け入れていたゲストハウスは、コロナの影響で利用は激減し、2020年の予約はほぼゼロになるという事態を迎えました。直営ゲストハウス4件、シェアハウス3件、提携ハウス3件を名古屋と東京で運営してきましたが、ゲストハウスの一部をシェアハウスに切り替えることで急場をしのぐことができました。

 

人が「家」に求めるものは、安心できる空間です。複雑な家庭環境だったり、いろんな苦しみを抱えている人の拠り所に、グレイス・ハウスがなれたらと願っています。。最初はクリスチャンに限定し、「互いに学び、成長できるハウス」という触れ込みでスタートしていましたが、少し傲慢な感じもあったため、方針を変えました。学ぶことが第一ではなく、安心できる場所を提供することを第一に、クリスチャンでない人にも門戸を広げたのです。シェアハウスの中では、自由参加の集会もありますが、強制はしていません。

 

シェアハウスに入る人の8割は留学や駐在等、海外での生活経験を持つ人で、コミュニティや人の温もりを求めている人が多いという印象です。食事は別々だったとしても、食べる空間に誰かがいるというのは大きいことです。そこでコミュニケーションを取れることが、人として安心できる場所になっているのだと思います。時には問題も生じますが、そんな時には住み込みのスタッフや地域の牧師、教会が関わって問題解決にあたるのが、グレイス・ハウスの大きな特徴です。

2020年クリスマスの写真(本人提供)

どこに行っても人を支えられる人になりたい

 私は自由学園で、ネパールの植林活動に参加した時、街中や経由地のバンコクで遭遇した物乞いを見て、目の前の人に手を差し伸べたところで、一人ではすべての人を救うことができない自分の力の小ささを感じました。神様に祈っていかないと解決できないものであり、それからいつも祈りつつ人生を歩みたいと心がけるようになりました。

 

よく海外では、聖書のみ言葉は教養として当たり前に持つものと言われますが、自由学園ではそれを実生活と結び付けて考える機会が与えられていました。司会の先生のお話も印象深いものがいくつもあります。特に英語の先生の「積木と風船」という話は今も心に残っており、どこに行っても必要とされるマルチプレイヤーになろうと志したきっかけにもなりました。だから「この働きは意義がある」「誰かのためになる」と思ったら、なるべく断らず引き受けるようにしてここまで来ました。

 

ビジネスも、人の支えがなければやっていけません。私が誰かのために仕えてきたように、それ以上にいつも私のビジネスも人生も、見返りを求めず助け仕えて下さった方々によって、今の歩みが支えられていることを感謝しています。そこにいつも神様の存在と憐れみを感じています。

シェアハウス前で記念撮影(本人提供)

石橋 憲(いしばし けん)

1982年生まれ。中等科より自由学園に学ぶ。2005年、最高学部卒業。パラカ株式会社に入社、2012年に退職し起業。駐車場事業を手掛ける傍ら、グレイス・ハウスの運営を支援。2018年に株式会社グレイス・コーポレーションとグレイス・ハウス事業を合併し、代表に就任。キリスト全国災害ネット世話人、東海キリスト者災害ネット事務局長、一般社団法人日本CBMC(キリスト者実業人会)監事、JCFN協力主事をはじめ、さまざまなキリスト教関連団体の役員等を務める。