医療を受けることが難しい人のために働きたい

医療を受けることが
難しい人のために働きたい

堀田 真利子
Mariko HOTTA

看護師

女子部 88 回生

2021年2月12日談:オンライン

都内の聖路加国際大学にて。

すべての人に健康になる権利がある

 中学高校のころから、漠然と医療者になりたいという憧れがありました。親しい人の死を通して、健康に生きることは幸せに直結すると感じたからです。でも、医療者というのは完璧な人がなるものと思っていたので、私がなっていいものかと思っていました。

 

学部2年の夏にはマザーテレサに関心を持ち、インドの施設へ2週間ボランティアに行きました。そこには、カースト制度と貧困によって、医療にアクセスできない人がいました。病気や障害があっても施設や病院に行くことさえできないことに衝撃を受けたんです。すべての人が健康になる権利があると思ったことが、看護師を目指したきっかけです。

 

聖路加国際大学を選んだのは、キリスト教の学校で建学の精神に共感できたこと、日本の看護界を牽引してきたトップ校だからです。意識の高い学生が多く、やりたいことや目指していることがはっきりしていて、いい仲間がたくさんできました。

 

私はインドでの経験から、健康格差を是正するために国際保健をやりたいと思っていました。国際保健とは、地球規模で人々の健康と福祉の改善・向上を目指し行われる活動のこと。国境なき医師団などが有名で、医療が行き届かない地域に行って、ワクチン接種をしたり、病院や設備を整えたりするのも仕事の一つです。大学時代には国際保健サークルを友人らと立ち上げ、韓国やタイの学生と交流をしました。国際保健を目指したことが、私の看護師としてのベースになっています。

日本赤十字社医療センターにて(本人提供)

人生の一番つらい時期を過ごしている人たちと

 大学卒業後すぐに、日本赤十字社医療センターの集中治療室(ICU)で働き始めました。日本で赤十字といえば病院が有名ですが、世界中にさまざまな組織があり、災害や紛争、貧困などで苦しむ人々の支援も行っています。日赤病院で経験・研修を積むことで、そのような活動に派遣される国際救護員になることもできます。日赤は看護教育の歴史も長く、看護専門職の育成に力を入れていることも、この病院を選んだ大きな理由でした。

 

集中治療室を希望したのは、将来国際保健に行くためにも、1対1の看護ケアを学び、医療職として十分な知識と技術を身に着けたいと思ったからです。働き始めて6年。看護師として働く喜びを感じることができるようになったのは、4年目くらいでした。それまでは本当につらかったです。

 

ICUは重症の患者さんが多いので、自分が小さなミスをするだけで亡くなってしまう可能性もあり、責任の重さと忙しさに押しつぶされそうでした。「感情労働」といいますが、人生において一番つらい時期を過ごしている患者さんと家族をケアしているので、精神的な負担を感じざるを得ません。ベストを尽くしても救えない命があり、ご家族が一番悲しいのですが、私たちも傷つくのです。看取った帰り道、一人で泣いてしまうこともよくありました。

 

でも4年目からは、働く楽しさを感じられるようになりました。同僚とよい看護のために話し合ったり、納得いく看護や看取りができたり。ベストを尽くせば、自分の傷つき方は少ないと思うようになりました。私たちができることはわずかですが、少しでも早くよくなり、幸せになってほしいと思いながらやっています。

シリア難民の支援を学ぶ赤十字のヨルダンツアーで(本人提供)

チャレンジしなかったら一生後悔する

 まもなく退職し、9月からはイギリスで公衆衛生を学びます。本当はもう少し早く国際保健の分野に行きたかったのですが、医療者として一人前になりたかったこと、看護師として働くことが楽しかったので、臨床で働き続けてきました。実は聖路加の大学院で、タンザニアでJICAの看護活動をすることで修士号を取得するプログラムがあり、進学を希望していたのですが、コロナ禍で中止に。現在の状況では現地に派遣されることは難しいため、先に専門的知識や英語をしっかりと身に着けようと大学院への進学を決めました。

 

大学時代、私は東京・山谷でボランティア活動をしていました。日雇いのおじさんたちのために医療を提供する訪問看護師のことを、卒論に取り上げました。一昨年は、師長の紹介で、シリア難民の支援を勉強する赤十字のヨルダンツアーにも参加。貧困や社会的理由で医療を受けるのが難しい人の力になりたいという思いが増々強くなりました。日本も問題は山積みなので、海外に行くことに引っかかっていましたが、ヨルダンで活動している国連職員の方に「自分が本当にやりたいと思ったことをすればいいんだよ」と言われて、気持ちが固まりました。

 

学園では、自分のタラントについて考えることがよくありました。ここでチャレンジせずに終わったら、一生後悔する。自分がやりたいこと、使命と思うことを果たすために尽力していきたいと思います。看護師として働くことで自己実現ができることにも、幸せを感じます。学園で学んだことの一つは、あきらめず継続すれば楽しさや喜びを発見できるということ。これが、自分の考え方の基礎になっていると思います。

東京山谷でのボランティア活動(本人提供)

堀田 真利子(ほった まりこ)

自由学園最高学部2年課程卒業後、聖路加国際大学看護学部卒業。2015年より日本赤十字社医療センター集中治療室で、重症患者の治療と看護にあたる。2021年3月退職。9月より1年間イギリスの大学院で公衆衛生学専攻予定。