アナリストとして投資家と企業の架け橋に

アナリストとして
投資家と企業の架け橋に

千葉 馨
Kaori CHIBA

JPモルガン証券株式会社

女子部 93 回生

2021年6月26日談

東京千代田区にあるJPモルガン証券株式会社で

株式アナリストという仕事

 証券会社の仕事は、よく知らない方が多いかもしれません。株式や債券、為替等金融商品の取引の窓口である証券会社の市場部門にはトレーディングや営業、マーケティング、調査などといった仕事をしている人たちがいます。その中で、日本株式のアナリストとして働いています。

 

正式な職業名は株式アナリスト。どの株式をどのタイミングで買って、どのタイミングで売ればいいか、投資家に対して投資判断のアイディアを提供する仕事です。そのために上場企業の業績や財務状況を分析したり、経営者に会ってどういう戦略で会社を経営しているかをヒアリングしたり、集めた情報を元に業績と株価の予想をし、レポートにまとめて投資家にアイディアを提供するのです。資本市場の参加者には個人投資家と機関投資家がいますが、我々のお客様は国内外の機関投資家。ヘッジファンド、アセットマネジメント会社や年金基金など、株式を運用している会社です。

 

J.P.モルガンには世界中に約25万人、日本には約1000人の社員がいます。就職して4年目。新卒入社から2年半ほどはジュニアアナリストとして上司のサポート業務をしていましたが、3年目の昨年、担当セクターの責任者として独り立ちする機会をいただきました。だからといって大海原に孤独に放り投げられた感じではなく、社内トレーニングの機会にも恵まれ、勉強しながら実地で経験を積んでいます。

コロナ禍で仕事はほとんど在宅ワークに。この日は久しぶりに出社した

足で情報を稼ぐのは新聞記者と似ている

 大学時代には、経済学部で計量経済を学びましたが、それが必ずしもダイレクトに仕事に結びつくわけではありません。アナリストとして必要な分析手法やビジネスの作法は、会社に入ってから学んできました。

 

私が分析をしているのは「通信」と「ITサービス」業界の企業です。通信は、株価が政策に左右されやすい業界。一方、ITサービスは各社の技術をどれだけ高めるか、質のよいサービスを提供できるかによって差別化される業界です。また、企業によるITへの投資というのは、基本的にマクロ景気の動向と連動しています。景気がよくなると企業もIT投資をしやすくなるんですね。そのため景気動向とからめた分析をする必要があるし、通信の場合は政策の動向をよく把握する必要があります。

 

机の上での分析や勉強は大事ですが、取材をして情報を集めることも大事な仕事です。企業の経営者、業界をよく知る人、テクノロジーの知識を持つ人などに話を聞き、自分の足で情報を稼ぐしかありません。そういう意味では新聞記者と似ています。記者は取材や調査を通じて得た情報を事実として報道しますが、私たちは情報を仕入れた上で「株価への影響はどうか」と分析し、予想します。お客様はそれを見て、投資の参考にする。データの裏にあるさまざまなものを、幅広く評価してくださいます。株価を当てた、はずしたという結果は重要ですが、決してそれだけの仕事ではありません。

 

私自身は、アナリストが投資家と発行体企業(株式を発行する企業)の間を橋渡しすることによって、双方に付加価値を提供できたら良いと考えています。企業は、企業価値の向上に日々取り組まれており、一方で投資家はどの企業の価値がどの程度上がるかを見極め、投資します。私が企業の取り組みを紹介したことで「それなら買いだね」と言っていただき、実際に株価が上がると投資家へのパフォーマンスに貢献できますし、企業にも喜んでもらえます。その仲介役ができることにやりがいを感じます。

女子部での寮生活の経験を経て、学生時代はレジデンシャル・エデュケーション(滞在型教育)
を実践するHLABに参画(本人提供)

組織の人と物の動きに関心があった

 アナリストという仕事を意識したのは、学生時代のインターン選考の時でした。いろいろな職種の人と話して、会社の戦略やその裏にあるストーリーを分析するアナリストに、興味を持ったんです。元々、組織にいる人と物がどう動くかにとても関心がありました。それは、大学時代に非営利の教育企業で組織運営に携わったことや、誰もが何らかの役割を果たすことが求められた学園の寮生活にもつながっていると感じます。

 

今はコロナ禍なので、ほとんど自宅で仕事をしています。朝9時に株式市場が開く前までに、ニュースを確認したり、前日発行したレポートを元にお客様にトレードアイディアを電話でお伝えしたりします。その後はお客様とのミーティングや企業の取材等対外的なことをしているうちに夕方になり、そこからは自分のレポートを書く時間です。

 

アナリストは個人が立ってする仕事。ある経済紙では毎年アナリストランキングが、社名と個人名入りで紹介されます。投資家の投票で、外から評価をしていただく。そのためには、レポートで自分の分析と考えを伝えていかなくてはなりません。

 

仕事に就く前は分析や予想の比重が大きいと思っていましたが、やってみるとコミュニケーションの部分が圧倒的に大事だと気づきました。情報を得る時にも必要ですし、投資家に私の分析とそれに基づく考えが正しく伝わって初めて価値が生まれるからです。

 

次から次へと向き合うべきトピックが湧いてくるマラソンのような仕事ですが、40代や50代で活躍されている方がたくさんいます。そういう方たちは過去の蓄積から価値ある発言ができる。また、グローバルに見ると女性も多い職業なので、勉強しながら息長く働いていけたらと思っています。

「投資家と企業の仲介役として喜んでもらえることが活力になります」

千葉 馨(ちば かをり)

1994年生まれ。中学3年まで北海道札幌市と英オックスフォードで過ごし、自由学園女子部高等科へ。慶應義塾大学経済学部在学中、教育事業を運営するHLABに参画。各種教育事業の運営に携わる。またUniversity of California, Los Angelesへ交換留学。2018年3月に大学卒業後、JPモルガン証券入社。市場調査本部株式調査部にて株式投資調査業務に従事。ITサービス、通信セクター担当。