リアルを知らなければアンリアルは作れない

リアルを知らなければ
アンリアルは作れない

安次嶺 佑太
Yuta ASHIMINE

スクウェア・エニックス ゲームプロデューサー

2000年 男子部高等科修了

2020年1月31日談

スクウェア・エニックスにて

「ドラゴンクエスト」に魅せられて描いた夢

 いわゆるテレビゲームとの出合いは5歳のとき。父親がファミコンを買ってきて、『スーパーマリオブラザーズ』をやっていたのが始まり。それからゲームに魅せられて、ずっとゲームのことを考えていました。初等部の4年生頃にカジノのゲームが登場し、それを友人と小遣いを賭けて遊ぼうと話していたら、聞いていた親に「それは違法行為だ」と叱られたりもしました。これが、ゲームとリアルのリンクと違いについて意識した最初のエピソードかもしれません。

 

僕は初等部の卒業アルバムで、将来の夢を「エニックスに入りたい」と書いていました。大好きなドラゴンクエストを作っている会社―今は合併して「スクウェア・エニックス」に変わりましたが―で働くために、自分もゲームを作ってみようと、いわゆるツクール系と呼ばれる「自分でRPGを作れる」ソフトで遊んだりもしていました。今思えばまったく面白くないゲームだったと思いますが(笑)

 

高等科に進学したころには、具体的に将来働く業種を絞って考えていました。中等科のときに買ってもらったパソコンをいじくりまわしていたおかげで、ある程度のPCスキルも身についていたため、最高学部には進学せずに、ゲームクリエイターになるための勉強ができる専門学校に行きました。1年間のコースを3回とって卒業という制度だったのですが、1年のときにクラスの中に「絶対に勝てない」と思う人がいたんです。それでクリエイターになるのは諦め、それまでの知識を活かしてプログラマーになろうと、学校を辞めて就職しました。

長く愛されるゲームを作るためにはビジネスの視点が欠かせない

ゲームの作り手はファンの視点ではいけない

 システムエンジニアとして仕事を続けていましたが、毎年のようにシステム系の会社に転職していました。ほぼ誘われての転職ではあったのですが、前の会社にいたとき、スクウェア・エニックスで働いている友人から常駐での仕事を頼まれたのを機に、現在の会社に転職をしました。ゲーム会社は人気もあるため、ただの「ファン」では採用してもらえません。まずはプロジェクトマネージャーとしての自分の腕を買ってもらい、社内の人とのコミュニケーションを通じて、別の仕事にも関わらせてもらう。そうした行動の結果、転職を果たしました。諦めず、チャンスがあれば寄ろうとしていた行動が、夢を叶えることにつながったのだと思います。

 

入社して初めて、ゲームに対する情熱を隠さないようにしたところ、最初は社内SEのような仕事をしていたのが、ゲームに関われるようになりました。ゲームディレクターはゲームの中身を作る仕事ですが、僕の仕事であるプロデューサーはゲームを売るため、発信するのが仕事です。僕は間違いなくゲームのファンですが、作り手が消費者の立場でゲームを作ることはできません。利益に直接関わらないファンサービスを考える際には、ファンの視点に立つことも大切ですが、優先順位としてはビジネスの成立が前提です。ファンにとって一番つらいのは「作品が認知されない」ことと「サービスが終了する」こと。多くの人の元に作品を届けるためには、ビジネスの視点を常に持っていなければならないのです。

 

また、技術の進歩がもたらしたものは良いことだけではありません。昔は1本のソフトに数千万円を投じるのはありえないレベルでしたが、今ではそれをはるかに上回る金額を投資しています。会社も売れるかどうかわからないものに対して、多額の投資をするかどうか、シビアな経営判断を迫られています。グラフィックが格段に進歩したのはユーザーとしては嬉しいけれど、ビジネスとしてはコストが増大しています。表現が豊かになるにつれ、その表現を作り込むコストも増大している、ということですね。

リアルの体験がゲームのクオリティを高めている

リアルの知識とデジタル技術があれば何でもできる

 小説で想像力が養えるように、ゲームは達成感を得ることができます。自身の成長は苦労を伴うものですが、キャラクターの成長という形で疑似体験することもできます。こうした疑似体験を通じて、現実世界でも変わるきっかけは作れると思うのです。最近ではゲーミフィケーションという手法が注目され、ゲームの要素がビジネスにも応用されるなどの効果も生まれています。

 

一方で、ゲームというのは虚構の世界です。そこでの表現というのは、すべて想像の産物ですが、多くはリアルを知らなければ表現できないものです。例えば砂ぼこりを知らなければ、砂ぼこりが舞う情景や砂が目や口に入ったときの行動は再現できないでしょう。虚構であるゲームのクオリティを高めているのは、実はリアルの体験でもあるのです。

 

僕は自由学園で木工が好きでしたが、木工をやるには木材をはじめとした材料や道具が必要です。その点、デジタル技術には材料がいりません。知識と技術があれば、何でも生み出すことができるんです。いずれ「ドラゴンクエスト」と並ぶような新たなIP(知的財産)を作り出すこと。それが僕の今の目標です。

安次嶺 佑太(あしみね ゆうた)

1981年生まれ。幼児生活団より自由学園で学ぶ。2000年に男子部高等科修了後、コナミコンピュータエンタテイメントスクールに入学、1年で退学しプログラマーとして就職。その後転職を繰り返し、知人から仕事の紹介を受けた縁で、2011年にスクウェア・エニックスに入社。作品:『BRAVELY DEFAULT PRAYING BRAGE』『ドラゴンクエスト モンスターパレード』『ドラゴンクエスト どこでもモンスターパレード』『戦国IXA』他